とてとてとてとて、と。
ちいさなこどもが、いっしょうけんめいかけてくる。
だいすきなひとたちに、だいすきなはなをもって。
これが、ぼくのこころだよ。
そう、えがおでつたえるために。
麗らかな春の日に、幸村は屋敷を脱走した。
行き先が判らない!! と佐助は血相変えて探し回る。
まさか、一人な訳はない。
ここぞとばかりに役立てようと、お隣さんと言っても良いだろう、強面の癖に子供の世話が大好きだという片倉小十郎を招集した。
「テメェん所のチビの世話を何故に俺が・・・・」
「仕方ないでしょ!! このまま帰ってこなかったらどーすんのよ!!! 」
「馬鹿か、あれでも帰巣本能ぐらいは持ち合わせているだろう」
「ちょっと、ウチの旦那の事・・・・ドーブツ扱いな訳?! 」
そりゃ少しボンヤリさんだけどさ、と首に縄付けて引っ張ってきた小十郎と共に何時も『遊び場』にしている山中を探し回る。
そして、あれ・・・・と佐助は思い言葉にした。
「あのさ、お宅のチビ宗は? 」
可愛くて可愛くて仕方のない政宗に対する物凄い名付けに小十郎は、思わず右腰に差した長刀を抜き、切っ先を佐助の鼻へと突き付けた。
条件反射か、佐助は両手を上げて『冗談ですよ〜』と笑っていない目のまま口角を上げて小十郎と渡り合う。
小十郎は、佐助を鋭い眼光で睨み付け脅しておいてから刀を収めると溜息を吐き・・・・
「屋敷には姿がなかった。てっきり幸村と一緒だと・・・・」
「チビ宗が、ウチの旦那を強奪したんだーっっっっ!!! 」
「はぁっ?! 」
「絶対そう!! 片倉さん、ちゃんとチビ宗に首輪付けといてよ!!! 」
「おい、政宗様も動物扱いか、テメェ!!! 」
収めた刀を再度引き抜いた小十郎と、普通の物とは違う特殊仕様の手裏剣を手にした佐助は、山道のど真ん中で一発触発の事態に陥ちいる。
相手を睨み、牽制し、間合いを詰める。
「こじゅうろう、さすけとなにをしている? 」
まさに、一発触発・・・・
と言った時、佐助に散々「チビ宗」と呼ばれていた政宗が、ひょこり、と現れ声を掛けた。それに拍子抜けしたのが佐助と小十郎で、思わず足下を掬われ体制を崩してしまった。
睨み合っていた二人は、どちらともなく咳払いをし手にした武器を収め、政宗に幸村の居場所を問うた。
「政宗様、幸村の居場所をご存知ではありませんか? 」
「竜の旦那、隠したでしょ?! 」
「佐助、まだ言うか!! 」
「・・・・しらぬ。しんぱいだからさがしにきた」
「・・・・」
普段は元気すぎて生意気すぎて五月蠅いぐらいの政宗が、小さな弱弱しい声でそう言うと、小十郎の袴にしがみついて泣き出してしまったのだ。
吃驚したのは佐助で、まさか泣き出すなんて、と狼狽えてしまう。
小十郎は、そんな政宗を大きな手でしっかりと抱きしめ『大丈夫ですから』と、小さな背をさすり落ち着かせるのだった。
「ホント、何処行っちゃったんだろう・・・・」
政宗の様子に佐助も反省すると、居なくなった幸村の行動範囲を冷静に再度、思い返し考える。
三人、道のど真ん中で思案に暮れていると・・・・
「さーすーけーっっっ!!! 」
山の、道無き道を歩いてきたのか、幸村はや着物にたくさんの葉や木の実を引っ付けて山中から出てきたのだ。
大好きな佐助の姿を見付けて大声で叫ぶと、とてとて、と走り寄ってきた。
「旦那っっっ!!! 何処行ってだんだよ・・・・心配したんだから!!! 」
走ってくる幸村を佐助は、走って迎えに行くと力一杯抱きしめ、目には涙を浮かべこう言った。
「あのね、おはなとりにいってきたんだよ」
「花ぁ? 」
「うん、きれいでしょ!!! 」
「だからって、黙って」
「だいすきなさすけにあげたかったの!!! 」
抱きしめた幸村を解放してみれば、小さな手に握られた四本の小さな白い花が佐助の目に入いる。
後ろからやって来た小十郎と抱かれた政宗も、幸村の笑顔と手にした花を見て一安心したのだった。
政宗は小十郎の腕の中からひょい、と飛び出すと幸村の首にしっかりとしがみつく。
「ゆきっ!! 」
「まっ、まさむねどの・・・・くっ、くるしいですっ!! おはな、まさむねどのとかたくらどのにもっ!! 」
そう言って幸村は、政宗がしがみついたままの状態で掴んできた小さな白い花を佐助、政宗、小十郎と手渡していく。残った一本は幸村の手の中でしっかりと握られている。
「ゆきは、みんながだいすきだから・・・・ゆきのだいすきなおはなを、みんなにわたしたかったのだ」
白い小さな花を両手で抱きしめた幸村は、三人に『だいすき』と大きな声で言うと、この花とともに可愛い笑顔を見せるのだった。
小さき君からの贈り物/20080120
お花が似合うのは幸村で、いっちゃん似合わないのが小十郎。汗。
展開が「雪合戦」と一緒になってしまいましたが・・・・ほんと、オカン共は喧嘩しっぱなしです。
激烈、親バカ。まぁ、良いです・・・蒼紅が可愛ければ。あら。
書いていて、チビ宗のしおらしさが大好きです。
書いていて、チビ幸の素直さが大好きです。
しかし、武器出しちゃったよ・・・お母様達。苦笑。
今更気付いた・・・こじゅ、刀差してる方間違っていた・・・初歩的すぎる!!