ぱらぱらぱらぱら
庭先で火を起こし吊り下げられた鍋の中、ひたすらに豆を炒る小十郎の姿があった。大きな大人が身体を屈め、箸を片手に大豆を炒る。
そう、豆まきに使うのである。
勿論、大豆の出所は片倉菜園。小さな政宗と幸村が一生懸命収穫してくれた物を丹精込めて炒っていた。
時折、つまみ食いなどしつつ出来上がれば笊に上げ、また鍋に新しい大豆を入れる、そして炒る……を繰り返し、繰り返す。
「撒く豆と食べる豆と……鬼は佐助にさせるとして……」
あれこれと考えながら鍋の番をする小十郎は、出来上がりを入れていた笊の事は疎かになっていた。
***
「まさむねどの、しかられてしまいます!」
「あんなにたくさんざるにあるんだ、すこしぐらいたべてもへらねぇだろう」
「だめでございますっ!しかられますっ!」
小十郎の背後、垣根からひょこり、と顔を覗かせ豆を掻っ攫おうと狙っている政宗の帯を幸村は、一生懸命引っ張っていた。
怒られる、叱られる、と炒り豆に目を輝かせている政宗を宥めるが、聞く耳持たずの政宗は、幸村の手を振り解いて垣根から忍び足で笊に近付き、手にした小さな袋に小さな手で炒り立ての仄かに温かな豆を詰めるのだった。
その時。
「何奴!!」
と、惣け考え事をしながら豆を炒っていた小十郎は、背後を襲う気配に目が吊り上がり、笊の方に向き変えると手にした箸を振り下ろした。
「う……うわぁーん!!」
「ま、ま…政宗様!?」
政宗の頭上に落ちてきた箸は、ばしっ、と気持ちの良い音を立てて命中したのだった。
それに驚いたのは言わずもがな小十郎で、まさか背後に居たのが政宗とは気付かずに箸で仕置きをしてしまったのだ。
わぁわぁ、と小十郎の目くじら立てた顔が余りにも怖かったのと、命中した箸が痛かったのと、驚いたのとがないまぜになった政宗は、大声で泣き出してしまった。
その泣きじゃくる政宗の手に握られていた小さな袋と炒り豆に小十郎は、
「政宗様、申し訳ございませんっ!!小十郎に申し付けて下されば……豆など幾らでも用意致しましたのに」
なかなか、と泣き止まぬ政宗を宥めるのに必死になっていた。
そんな小十郎の前に、佐助が垣根から覗きおろおろ、としていた幸村を抱いて近づいて来ると日頃の恨み!?か、
「あーあ、大切な大切な竜の旦那、なーかした、泣かしちゃった!!ほら、あんまりにも片倉さんが怖い顔するから……うちの旦那までビックリして怖がってるじゃん」
ちくちく、と楽しげに小十郎を突く言葉を口にしていた。
上からにやにや、と人の悪い笑みを浮かべる佐助を睨み付けると、自分も睨まれたと抱かれた幸村まで政宗同様、泣き出してしまう。
「すまん、幸村!!」
悪循環に陥った小十郎は、何とか泣き止んでくれたが拗ねている政宗を抱き立ち上がると、佐助に抱かれた幸村と目を合わせ謝り小さな頭を撫でてやった。
「……うん」
小さくうなづき泣き止んだ幸村は、それでも未だ小十郎が怖いのか佐助にしがみつき顔を見ようとはしなかった。
「嫌われちゃった」
「煩せぇ…」
佐助の言葉に小十郎は、落胆の色を隠すことが出来ずままに、炒り豆の沢山入った笊を片手に政宗を抱いたまま屋敷へ入って行ってしまった。
「あーあ、重症」
流石に可哀相な事をしたかな、と小十郎に止めを刺した佐助は、少しだけ反省をすると幸村を抱いたまま同じ様に屋敷へと入って行った。
***
その夜。
「豆まきするんでしょ〜鬼、誰?」
「にやにやするな、どうせ昼間の一件から俺がするんだろうが」
本当に心底楽しい顔をする佐助に嫌事を言うと小十郎は、襷掛けをし政宗と幸村に豆の入った袋を渡す。ついでとばかりに小十郎に手を差し出す佐助も豆をねだった。
やれやれ、と袋を渡そうとした時。
「ねぇねぇさすけ、これ!!」
「げっ!!」
と、何やら面らしき物を幸村が佐助に見せた瞬間、顔色を変え取り上げようとしたのを小十郎が横から取り上げた。
「ほう、面白いものだな。これを被って何をしているんだ」
「煩いよ」
「ねぇ、さすけ!!これ、おにさんでしょ!!」
「旦那、間違ってるから……」
小十郎の手にした狐の面を鬼の面だと……大きな勘違いをしている幸村に無邪気に言われるとどうすることも出来ないと、佐助は両手を上げた。
「政宗様、鬼はあすこにおりますぞ。これを投げ付け祓いましょうぞ」
「わかった、こじゅうろう!!」
「……覚えときなよ、伊達主従!!」
「おにはーそと、ふくはーうちっ!!」
狐の面を渋々付けた佐助は、鬼なのに『こーん』と声を上げる豆を投げ付けてくる三人から飄々と逃れるのだった。
……無邪気な二人はともかく、小十郎の投げ付ける豆からは殺気が滲み出ていた。
節分/20080202
天孤仮面は・・・使わなきゃ♪