わぁぁぁぁぁ〜ん!!



菜園で収穫と手入ればかりしていると思われがちな小十郎だが、彼とて武士…鍛練をし刀の腕を研いている。

裏庭で道着を身に纏い、竹刀を振り小十郎が鍛練に精を出していると、物凄い音量の泣き声が辺り一面に響き渡った。
その泣き声に一瞬、太刀筋がぶれてしまい身体がよろけてしまったが、直ぐに立ち直し竹刀片手に表に回り泣き声の元へと飛んで行った。






「あのね、竜の旦那。見せてあげるぐらい良いでしょ?」

「いくらゆきのたのみでも、これはきけない。こじゅうろうがくれたものだから…だめだ」

「なんでよー、そんなにケチしなくても…ねーっ、旦那竜の旦那ってケチだよね〜」

「ひっく……ひっ…く」

小十郎が表に回って目にしたものは、泣き声の持ち主幸村が佐助に抱かれ、あやされ泣き止んだ所だった。
その側にいたのは政宗、怒っているのかムスッとした顔をして、泣いていた幸村に目もくれずにいた。
何時もなら…幸村が泣けば佐助よりも早く駆け付け宥める政宗が、そっぽを向いて怒っているのだ。

「何があった?」

こう佐助に話しかけながらも小十郎は、政宗の機嫌を見るため傍に腰を下ろし『如何なさいましたか?』と顔を覗き込む。

「うちの旦那がね、竜の旦那の持っている袋を見せて欲しいって言ったら…怒られたんだって」

「それで、大泣きか」

「そう。ちょっとぐらい見せてあげたら良いのに…」
ケチなんだから…と後に付けた佐助は、幸村の涙でぐしゃぐしゃになった顔を手ぬぐいて綺麗にしてやっていた。
袋?
政宗がそのような物を持っていたかと母親、小十郎は考えた。
そして…

「す、すまん!!」

「なっ、何よっ?!」

何かに気付いた小十郎は、顔色を変え何処かへと駆け出して行った。
残された佐助は、チビ二人を宥めすかしながら猪よろしく走って行った小十郎の帰りを待つのであった。







その小十郎。
自分の室へと走って行き、屋敷の奥でドタバタと探し物を開始していた。
何処へやった、あそこへ置いたか…と、冷や汗流しながら探すこと少々。
目的の物を見つけ握り締めると、三人が待つ表へと…またまた駆け出した。



息切らせ走って来た小十郎の形相に、佐助及びチビ二人は驚きの余り一歩引いてしまう。

「大丈夫〜、片倉さん…」
「あ、あぁ…ほら、幸村の分…だ…」

「何、これ??」

「政宗様の持っている…幸村が見たがった物だ」

小十郎が佐助に手渡したものは、小さな護り袋だった。幸村の柔らかさを現すような雪色をした小さな袋。佐助が開けてみてみれば…その中にはお守りと透明で綺麗な石が一つ入っていた。

「ちょうど幸村が眠っていたから…その…起こしちゃ可哀相だと…思ってだな……政宗様に先に渡して…」

「忘れちゃった…訳!!」
「すまんっ!!」

しどろもどろな小十郎に
目くじら立ててキッパリと言う佐助。
思わず幸村に謝るべきを佐助に、両手合わせて土下座して謝っていたのだ。






「ホンッと信じらんない、片倉さん!!はい、良かったね〜旦那!!」

「うん…」

小十郎に止めを刺した佐助は、手渡された護り袋を幸村の首へとかけてやり、政宗と仲直りさせようと奮闘する。

「ごめんね〜竜の旦那。ほら見せ合いっこなら良いよね〜」

「まさむねどのの…まもり、みせてくだされ」

「……ごめん、ゆき……」
着物の袷から手を入れ身につけていた護り袋を取り出した政宗は、幸村に謝り、そして中にある石も見せた。
政宗の強さを現すような黒曜色した小さな袋、中には同じ様にお守りと黒い石が入っていた。
もちろん二対になるようにと小十郎が、町市へ出向いた時にお社で求めて来たものだった。
チビ二人はすっかり機嫌が良くなったか、お互いの物見せ合い、はしゃいでいた。
政宗は、幸村の護り袋に入っていた石と自分の石を取り替えようと説得している。
その説得に納得したか、丸め込まれたかは定かでないが、幸村は、ニコニコしながら石を取り替え大切に護り袋にしまい込んだ。同じ様に政宗も大切に護り袋へと取り替えた石をしまい込む。
穏やかにのほほんとしているチビ二人を眺めていた母親達は…丸く収まったともろ手を上げて喜んではいたが…



「元はといえば片倉さんが、ちゃんとうちの旦那に護り袋渡さないのがイケナイんだからね!!」

「悪かった…」

「そうだ、こじゅうろうがわるい!!ゆきはなかずにすんだんだ!!」

「まっ、政宗様!?」

佐助の隣にいつの間にか来ていた政宗の手には、小十郎と鍛練する時に使用している竹刀が握られ、その先を謝り座り込んでいた小十郎の鼻先に突き立てた。

「かくごしろ!!」

「おっ…お待ち下され、政宗様!!この小十郎が悪いのは重々承知して…」

「もんどうむようっ!!」
「そうそう、うちの旦那が泣いちゃったのは…片倉さんのせいだからね…お仕置きだよ!!」

「待てっ、佐助!!テメェまでっ!!」

珍しく意見が一致した政宗と佐助は、竹刀とクナイを手に小十郎を追いかけ回すのだった。




幸村だけは我知らず…縁側で子猫と遊んでいた。












護り袋/20071217