いつも、いつまでも。
そばにいてわらっていてほしい。
そのえがおをまもるために。
つよくなるよ。
きみだけのために。
 
 
***

季節は一つずつ、確実に流れていく。
優しい春が過ぎ、眩しい夏が行き。
しっとりと秋が流れ、温もりが欲しい冬となる。
そして。
幼子だった彼等も、成長を遂げていた。
 
 

「Ha! やるようになったじゃねぇか!!」 
 
「いつまでも押されてばかりでは、おれませぬっ!!」
 
一方は六刀の剣を。
一方は二双の槍を。
互いに手にし打ち合う、弾き合う、受け止める。
持てる力を高め合う為、技を繰り出し、鎬〈しのぎ〉を削る。
何度繰り返した事だろう。
休むという言葉を知らぬ二人は、肩で息を切る程に激しい手合わせをしていた。
朝からずっとだ。
時間の感覚が無くなる程に、そうして打ち合っている事が、二人には至極幸せなのだろうか。
刀と槍を交わし、瞳を爛々とさせ命を賭す瀬戸際を楽しむように、手の内を計り相手に挑む。
互いの手にした物を触れさせるだけで、互いの心も伝わるような感覚。
好敵手として互いを認める二人には、言葉は必要ないかのようだった。
 
 

***
 

「今日は某の勝ちでございますね」
 
「あーあ、仕方ねぇ・・・・たまには譲ってやらぁ」
 
岩場に腰を掛け、さらさらと流れる小川の清水に二人は足を浸し、手合わせをし高ぶっていた熱を冷ましていた。
激しい剣戟の末、手にした二双の武器で六刀をはじき飛ばし宙に舞った。
槍使いが刀使いを押し切ったのだ。
くすくす、と槍使いは手拭いで汗を取りながら笑う。
負けた事に対して拗ねてしまっている刀使いを眺めながら。
 
「見て笑ってんじゃねぇっつーの」
 
「すみませぬ、久し振りに貴方に勝てたので・・・・それに某が勝って拗ねてらっしゃるので、つい」
 
「誰が拗ねてるって!!」
 
槍使いの言葉に本気で怒った訳ではないのだが、悪戯な言葉を吐くその口を塞いでやろうとした刀使いは、
水に浸された足を蹴り上げ、槍使いに水飛沫を浴びせかけてやった。
槍使いも相手が本気でない事を承知している所為か、笑顔のまま手拭いで飛ばされる水滴を払っていた。
暫く二人は、水滴達と戯れていたのだが・・・・
 
「Shit!!」
 
「ああっ!!」
 
言葉が出るが早いか否か、刀使いが体勢を崩してしまい岩場から滑り落ちていく。
その時。
咄嗟に手を出した刀使いは、槍使いの袴を掴んでいた。
結果は見ての通り。
刀使いに引っ張られ、槍使いまで岩場から滑っていってしまったのだ。
二人は小川の清水で、水浸しになってしまった。
 
「冷たくて気持ち良いでござるが・・・・叱られますね」
 
「悪ぃ。帰ったら小言聞かされるな」
 
「たまには二人で叱られるのも良いではないですか」
 
「どーせいっつも小言聞いてるの、オレだもんなぁ」
 
「また、拗ねてらっしゃる」
 
「うっせぇ!! こーしてやる!!」
 
もう、二人して濡れてしまっているのだから気兼ねする事はあるまいと。
刀使いは両の手で清水を掬い上げ、槍使いに掛けている。
槍使いも負けじと、同じ事をしている。
声を立てて笑い小川に身体を浸したまま二人は、幼子のようにはしゃぎ久方ぶりに遊び続けた。
 
 
 
***
 
水を含んだ着物をそのままに二人は、家路に着く。
歩いてきた路には、ぽたぽたと水滴が零れ二つの線を作っていた。
互いの武器を手の中に収め、肩を並べて歩く。
 
「今度は負けねぇからな、you see?」
 
「次も、某が勝たせて頂きます」
 
二人は顔を見合わせ、そして笑い合う。
ふいに刀使いが、槍使いに向けて手を差し出した。
突然の事で理解できないで居る槍使いが、きょとんとした表情で刀使いを見やった。
槍使いと目が合ってしまい刀使いはそっぽを向いてしまうが、差し出した手はそのままに、
何かを待っているように、はたまた急かすように指先で合図を送っていた。
そっぽを向けた顔、少し長めの黒髪の隙間から見える肌の色は、ほのかな朱色を浮かべていた。
そして、そんな刀使いの仕種と表情、その手の意味を漸く理解した槍使いも、湯気が立つ位に頬を上気させてしまう。
 
「早く帰らねぇと小言、増えるだろう! 」
 
「は、はいっ!! 」
 
その言葉に押された槍使いは、差し出された手に自分の手をそっと重ねた。
刀使いは、掌から流れる体温を感じると、ぎゅ、と重ねられた手を握りしめた。
 
夕陽の色を浴びながら頬を染める二人は、繋いだ手をそのままに掛け出すのだった。
 

***
 
いつまでも、いつまでも。
ふたりでいようね。
こうして、てをつないで。
わらいあえるせかいのなかで。
いつまでも、いつまでも。
 
 
 
 
 

きらら/20070923〈若干修正20071210〉