奥州筆頭・伊達政宗の母親・・・・片倉小十郎と。
甲斐の若虎・真田幸村の母親・・・・猿飛佐助の。
仁義無き「闘い」の火蓋が切って落とされた。
 
〈すみません、ここで・・・ゴングでも鳴らして下さい。もしくは、いのきのテーマとか、仁義なき戦いのテーマとか・すたんはんせんのテーマとか・・・頭で掛けて下さい。っつーか、わかんないよ・・・このネタ。勇気ある方は聞いて下さい。スルーして下さい。〉
 
 

「今日という今日は、ギャフンと言わせてやるからね!! 」
 
「はっ、忍の分際で俺に勝てると思っているのか! 」
 
「忍、馬鹿にしてない・・・・片倉の旦那っ! 」
 
「煩せぇよ、テメェは手間のかかる真田のガキの相手でもしてなっ!! 」
 
「なによっ、旦那こそ馬鹿な筆頭の躾でもしてれば良いよっ!! 」
 

睨み合っている両者ではあるが、決して刃を向けた闘いではなく、お互いが目の中に入れても痛くも痒くもない主の自慢話・・・・親バカ話でケリを付けんと闘いの火蓋を切って落としたのだ。
強面の小十郎は、延々と可愛い政宗様の自慢話を。
飄々としている佐助は、これまた延々と可愛い旦那の自慢話を。
果てもなく言い合っていたのだ。
 
 
 
 
 
 
そんな頃の、チビ達。
 
大人達の事などどうでも良く、縁側で可愛く寄り添い団子を食べていた。
 
「ゆき、おいしいか? 」
 
「はい、まさむねどの!! 」
 
もぐもぐと。
小さな口いっぱいに団子を頬張った幸村は、頬に小豆を付けたまま政宗の問い掛けに元気良く答える。
政宗も幸村程では無いが、団子を頬張っていた。
 
「ここ、あんこがついているぞ」
 
政宗は自分の頬で、幸村が小豆を付けている場所を指し示していたが、幸村は判らないと言う風で小首を傾げていた。
子供の癖に大人のような溜息を吐いた政宗は、小豆の付いた幸村の頬に唇を寄せ、ぺろりとその小豆を舐めて取ってやった。
その行為の意味を知ってか知らずか、幸村は真っ赤になってしまい、
 
「なにをするのですか、まさむね・・・・どの・・・・」
 
小さな声でそう言うと、俯き小さくなってしまうのだった。
 
 
 
 

そんな頃の、バカ親達。
 

「ちょーっと、片倉さんっ!! あれは一体何なのよ!! 」
 
その言葉と同時に佐助は、手にしていた鍋の蓋を政宗目がけて投げつけたのだ。
丁度、政宗が幸村の頬を舐めた瞬間を見てしまい佐助の逆鱗の触れ、小十郎との言い合いに水を差された感と相まって怒りを込めて投げたのだ。
勿論、可愛い政宗様を鍋の蓋から護るべく、小十郎は身を挺しそれを阻止する。
 
「ちっ、あんな事する馬鹿には当たっちゃえば良かったのに・・・・ちゃんとホント教育してよ!! 迷惑! 」
 
「それを言うなら、無防備な幸村にも問題あるんじゃねぇか?? 」
 
「ウチの旦那は、あのホワホワしてるのが可愛いの!! 」
 
「政宗様にはきちんと教育をしている、迷惑と言われる筋合いはない!! 回避する術を教えていないのが悪いのだろうが!! 」
 
「棚上げ?! 棚上げなのっ!! 子供の癖にあんな破廉恥なことしといてーっ!! 」
 
「はぁ?? 何を言っている!! 政宗様が正しいと思われたから良いんだよ!! 幸村のことが好きなんだから仕方ねぇんだよ、諦めな佐助っ!! 」
 
「それって放置してんじゃん、片倉さんっ!! 認めちゃってるの?! だから図に乗ってあんな事しちゃうんだ!! あー、ウチの旦那可哀想っっ!! 」
 

馬鹿だの可愛いだの好きだのどうだの・・・・
大人達の半分勝手な推測の混じった・・・・果てのない不毛な闘いは続いていた。
 
 
 
 

そして、チビ達。
 

鍋の蓋から無事に護られた政宗は、大人達の言い合いを冷ややかな目で見つめていた
幸村は依然、真っ赤になって俯いたまま・・・・団子をもぐもぐと食べ続けていた。
 
「なぁ、ゆき」
 
「・・・・はい」
 
「あんなのほうっておいて、あそびにいかないか? 」
 
「え・・・・でも、さすけにしかられてしまいます」
 
「おれと、あのしのびと・・・・どっちがすきなんだ? 」
 
「・・・・あの・・・・その・・・・」
 
強引・・・・子供の癖にやたらと強引な政宗の物言いに幸村は困り果ててしまい、ますます小さくなって言葉を濁している。
答えは決まっているのに、それを言うことが出来ない幸村。政宗は顔を覗き込み答えを強請る。
しかし、幸村は真っ赤になっているだけで唇を噛み締め、ふるふると首を振る。
そんな煮え切らない幸村の手を取り引っ張れば、縁側から立ち上がりはしたものの一歩も動かなかった。
はて、と政宗は幸村を不思議そうに見ると、腰の辺りに紐が結わえられていることに気が付くのだった。
その紐を目で追うと、佐助の足下に最終点があった。
 
「ゆきがふらふらしているからと、さすけにつけられているのです」
 
幸村がフワフワとしていて危なっかしいと佐助が何処かへ行ってしまわないようにと、予防策を講じて紐で互いを結わえていたのであった。
佐助の足下に結わえられている紐を忌々しげに見つめていた政宗は、舌打ちをすると幸村の腰にある固く結ばれた紐を一生懸命解き始めた。
 
「まさむねどのっ、しかられてしまいます!! 」
 
「うるせぇ、あんなのにつきあっていられるか!! ほら、ほどけた・・・・いくぞ、ゆきっ!! 」
 
「あっ!! 」
 
そして、紐を解いた政宗は、紐を解かれてた幸村の手をしっかりと握って・・・・屋敷から脱走したのだった。
 
 
 
 

そして、バカ親達。
 

「おい」
 
「えっ?! 」
 
終わりの見えない闘いは、呆気なく終止符が打たれた。
縁側にあったはずの二人の子供の姿が忽然と消え、佐助の足下には紐が寂しげに畳を這っていた。先にあるはずの幸村の姿は勿論無く・・・・

「もしかして、逃げられた?? 」
 
「逃げたというか、呆れてしまったのだろうな」
 
「でも、これってさぁ・・・・間違いなく・・・・」
 
「ああ、紐を解いたのは間違いなく政宗様の仕業だな。幸村では出来まい」
 
やれやれ、と。
小十郎と佐助は互いに顔を見合わせ、溜息を吐き、苦笑いをする。
佐助は、自分の足に巻いていた紐を解き手に絡めて遊ぶ。
 
「ホント、ウチの旦那って・・・・好きなのかなぁ」
 
「そう思うがな、幸村を見ていると」
 
「でも・・・・なんかねぇ・・・・悔しいなぁ、俺様が一番だと思っていたのに」
 
「そう言うな、俺も同じ気持ちだ」
 
手の離れていこうとする子供達に少し寂しい思いをしながら小十郎と佐助は、逃げてしまった政宗と幸村を探す為、屋敷を後にした。
 
 
 
 
 
 
母親の闘い?? /20071208