誰も知る事のない、心に出来た微かな傷。
己の中で傷は成長し、痛みが広がる。
そして、心が犯されていく。


***



竜の振るう六爪の刀を、初めて受けた事を思い出す。

此程の強さを、躍動を、熱を感じたのは久方ぶりであった。
戦という世界に身を投じ、自らも『紅蓮の鬼』と名を付けられる鬼神が思う程の相手。
奥州筆頭・伊達政宗。蒼い衣を纏う竜の存在。
その力は、一国を背負う者の象徴なのだろう、何者にも屈する事無い輝きを放っていた。
紅蓮の鬼・真田幸村の強さも尋常ではない。
幸村は主、武田信玄の御為と槍を振るい、戦場〈いくさば〉を烈火の如く駆け抜け将を薙ぎ倒して行く。

その二人が、相見えたのだ。
互いの力を、技量を、強さを見せつける為、槍と刀が火花を散らし、せめぎ合う。
絶対に負けはしない、と。


それから幾度と無く二人は戦場で、生命を賭けた戦いを挑むのであった。




***




幸村は、政宗と対峙して以来、常に思い考えていた。
伊達政宗の倒し方を、その強さを挫く算段を何時も何時も。
その場の状況で戦い方など変わってしまうと言うのに、頭の中では理解していても止める事が出来なかった。

『戦場での事は臨機応変でなければならない』

頭を振るい政宗の存在を消そうと試みるが、幸村の中で消える事無く、寧ろ大きくなっていた。
あの迸る熱を、隻眼の輝きを、幸村を駆り立てる強さを。
こびり付いた思考は焼き切る事が出来ず、幸村は『伊達政宗』と言う傷に心を浸食されていく。
初めは微かなものであった。
幾度と無く刃を交える内に、その傷は徐々に深いものへと変貌していた。
そして。
取り返しの付かない想いへと、傷がすり替わる。




***



痛みを伴う傷は、じわりじわりと心を蝕んで行く。
食い尽くされた心の底に映し出されるものは、恋情の炎。

今は未だ、気付かぬものであったとしても。
後戻り出来ぬ傷の深さに触れた時、何を想うのだろうか・・・・






傷/20071014




重たい、重たすぎる・・・真田幸村。
単に筆頭と相見えて・・・その強さが忘れられずに、また戦いたい・・・って言いたいだけだったのに。
何なんだ、この重さは。
戦いたい通り越して、恋しちゃってますよ。
・・・痛い・・・私が痛い。汗。

でも、こんな幸村もアリかと・・・言う事でお許し下さい。


最近、リリカルと言う言葉を覚えました。苦笑。
戦国書くようになってからというもの、詩的なものを添える事が多くなったと思います。
まぁリリカル=抒情詩(作者の思いや感情を表す詩)と言う意味だと調べたら書いてましたが、詩的な部分がそうなんだと思います。