この花が一つ、また一つと落つる度。

あなたへの想いが一つ、また一つと募り行く。

あなたに逢いに行きたいと。




心が涙を零してく。














白く、ただ白く降り続ける雪を独り見つめては溜息を吐く。
繰り返し、ただひたすらに繰り返している幸村の手中には硝子細工が握られていた。
蒼く澄んだ硝子細工は、綺麗な花を模していた。
そう、今最盛期を迎えている椿の花。
庭先には椿の花が咲き乱れていた。
可愛い紅い色した花に白い雪が滔々と降り積もり、頭を垂れていた。果ては雪の重みに耐えられず、紅い花を白い大地に散りばめるのだった。

幸村は、手にした硝子細工を見つめ、庭先の椿を見つめ、雪を見つめ、八方塞がりだと溜息を零す。


この蒼い色を見れば思い出す。


彼の地に居る、想い人の事を。
この蒼い色と同じ様に澄んだ空が似合う……あの人の事を。


この椿の硝子細工を幸村に渡した時にもあの人は、こう言っていた。


『この色を見て思い出せ。俺を想っていろ』


そんな事をする訳が無い、と幸村は無理矢理渡された硝子細工に初めは何の興味も示さなかった。
好きでも無いのに、幸村自身何とも思わない、感じないあの人の強引さ加減にうんざりしていた。
しかし。
硝子細工には罪は無いと、幸村には見た事が無く珍しいそれに魅了されていった。
太陽の光に翳せばきらきら、と明るい蒼を映し出し、月の光に翳せば陰りある深い蒼を映し出した。

初めのうちは綺麗だと眺めては笑顔を浮かべていた幸村も、日が経つに連れ複雑な面持ちをするようになっていった。
硝子細工を見る度に浮かぶ、あの人の顔。


何故だ。


心に巣くう『有り得ない感情』に戸惑う。
その正体を知らない程、知らぬと呆ける程、幸村に余裕は無かった。

それ程迄に『逢いたい』と願って止まない存在になっていた。







「旦那、泣いてるの?」

「泣いてなど……おらぬ」

「ここ、泣いてるよ」

溜息ばかりの幸村に佐助は言葉を置いて行く。
主の泣いている『心』をとんとん、と指先で弾くと幸村の身体をふわりと包み込んだ。

「逢いたいのは……同じだよ。だから……我慢しないで泣きなよ」

佐助の体温の暖かさと言葉に幸村は、静かに、ただ静かに。




あの人を想い、滔々と降り続ける雪の様に幸村は涙を零した。





硝子細工/20080131



乙女な幸村で・・・すみません!!
そして、佐助も同じなのだと・・・汗。