幸福とは、どのような事なのだろう。
大きな喜び、小さな幸せ。皆で大騒ぎして分かち合うものもあれば、密かに心の中で一人、噛み締める事もあり。
嬉しくて涙を流してしまうこともある。
幸福は。
一人一人の心の中に存在するもの。
些細な事でも。
自分自身が『幸福』だと感じれば……
それだけで心が暖かくなる事。
***
「幸村は、本当に美味そうに甘味を食うな」
「この世に不味い甘味などござらぬ、片倉殿」
珍しい取り合わせで会話をしている幸村と小十郎は、縁側で仲良く甘味を食し茶を啜っていた。
小十郎は政宗の様に甘味が大の苦手だという訳でも無く、顔に似合わず以外と好きなのである。
こうして、幸村と改めて話しをするのは初めてかも知れない、と小十郎は思う。
それは何故か。
何時も何時も政宗が、幸村を占めてしまうからである。
但し、悲しいかな。
政宗があれ程までに想いを伝えていても幸村には届かず、幸村自身も己の心に気付かずままであり、政宗一人が空回りしている惨状であった。
端の小十郎や佐助が見ていても『好き合っている』と判る程なのに、未だ辿り着かない二人。政宗が幸村を占めていても、直ぐにいざこざが起きてしまうのである。
その様子に従者は『収まってくれ』と密かに涙を零すのであった。
***
陽に透ける柔らかく優しい栗色をした髪が、ふわりと風に乗り揺れて、揺れる。
小十郎の目の前にいるのは『紅蓮の鬼』と唄われる真田幸村。
己が主、伊達政宗と戦場では『対を張る』存在。
そんな男が、目の前で幸せな笑みを浮かべては甘味を食べ続けている。
その様が眩しく、小十郎は目を細め暫し見入ってしまう。
「如何なされた、片倉殿?」
不意に顔を向けた幸村に声掛けられた小十郎は、咳ばらいを一つして見入っていた事を掻き消した。
(これが、独占欲の強い政宗様に知れれば……)
と、更に頭に浮かんだ事を掻き消すが為に首を振る小十郎。
その様子がおかしくて幸村は、くすくす、と口元を押さえ笑っている。
「何が、おかしい」
「すまぬ。片倉殿でもそのように慌てられるのだと知り、微笑ましく思ったまでの事」
未だ笑い続けている幸村を、今度は睨み付けた小十郎。その視線にもう一度『すまぬ』と謝る幸村は、また甘味を食べ始めるのだった。
それらが乗せられていた皿は、次々と空けられて行き幸村の傍で山積みとなっていく。
食べ過ぎだ、と心の内だけで呟いた小十郎は、先程の幸村の言葉を思い出し問うてみる。
「何故、不味い甘味が無いと言える」
真面目な顔をして不思議な事を問い掛けられた幸村は、小十郎の顔を見、また笑い始める。
眉間に皺を寄せ睨み付けている小十郎に『すまぬ』とまた謝る幸村は、優しい笑みを浮かべてこう言うのだった。
「我々が食す為に端正込めて人々が作ったもの。そのようなものに不味いものなど有りはせぬ」
言葉の後、一瞬顔を引き締めた幸村。しかし、そんな事が無かったかの様にまた笑みを零しながら甘味を摘んでいた。
我知らずと。
発せられた言葉に息を飲んだ小十郎は、己の心の在り方を、胸の内に足りなかったものを幸村に見、そして恥じる。
眉間に寄せた皺を解き、肩の力を抜いて息を零す。そして、幸村の心に触れた小十郎の心の内にもぽう、と幸福と言う名の暖かさが宿る。
甘味という幸福を噛み締めている幸村の、優しい髪に触れ言葉を零す。
「政宗様と同じ心を持つ幸村が、羨ましく思うぞ」
「此処で何故に政宗殿の名がっ!! 」
政宗、と聞いただけで条件反射的に頬を染め慌てふためく幸村を、可愛らしく思う小十郎であった。
居たたまれなくなったのか幸村は、甘味を食べる手は止めぬままに俯いたまま黙り込んでしまう。
そんな幸村の頭を撫で続けていると政宗が、不機嫌な顔を浮かべ二人の前に現れた。
「何やってんだ、小十郎」
怒りが頂点に達しているのか、政宗の声がいつもより落ちていると気付いた小十郎は、このまま居ては当てられると察しこの場から立ち去る。
去り際に。
小十郎が幸村から分けて貰った幸福を二人に還す様に、言葉を残して行く。
「人を想う心に触れさせて貰ったぞ。幸村も・・・・早く政宗様の心に気付いて幸福になれ」
「片倉殿っ!! 某、意味がが判らないでござる!! 」
「政宗様も、もう少し幸村に優しくして下さりませ。暖かな心を持って接すれば・・・・その心の内も伝わりましょうぞ」
「・・・・つっ、ンな事判って・・・・」
「そして・・・・二人とも、素直になりなされ」
その言葉に、ぐうの音も出ず俯き頬を染めている政宗と幸村を残し小十郎は場を離れた。
その後、二人がどうしたのかも知らぬままではあったが、小十郎の心にはしっかりと『想う』と言う幸福が宿るのだった。
幸福論/20080205
ちょっと甘かったかもです、見通しが。
ケータイで延々書いていたので、足りない言葉がいっぱいです。涙。
自分が「幸せ」だと感じたら、些細な事でも「幸せ」と思うな〜と思ったのが発端。
美味しいもの食べたり、いい話を読んだり、素敵なイラストを見たり、優しくして貰ったり。
自己満足だとは思うんだけど、そー言うのがあって然り・・・かなと。
しかし、この二人を話させたら・・・大変だと実感した。
違う「題」で書けば良かったかと、少々後悔。汗。
ちょっと変わった話でしたが・・・お付き合い下さりありがとうございました。
何処に入れるか悩んで・・・伊達真。