あなたの背中を護ってみせましょう。
君の背中を護ってみせよう。
大きく力強い、その背を。
しなやかで美しい、その背を。
護るために生まれてきたの。
護るために生き続ける。
戦況は、最悪。
政宗の孤軍奮闘は、最果ても無く続いていた。
誰も助けはしなかった、あの幼き時のように……誰ひとりと傍には居なかった。
唯一人。
『竜の右目』と呼ばれし片倉小十郎を除いては。
しかし、その小十郎も負傷したのを期と見、政宗は戦場より離脱させた。
最後の最後まで主に盾突いた小十郎も、自身の負った疵では政宗の足手まといにしかならないと悟り、政宗に諭され奥州の地へと戻った。
「政宗様……」
と、政宗が戦で最後を遂げるかのような不安めいた声を出す小十郎を、疵を負っているにも関わらず殴り付けた。
「なんて声出しやがる!!俺が……こんなもんでくだばる訳ゃねぇだろうが!!小十郎、城で待ってな……さっさと片付けてやらぁ!!」
政宗は小十郎に向けて吼え、馬に飛び乗ると腹を蹴り前へ、前へと駆けて行った。
小十郎や皆の背を護るように……
政宗は独り、戦場に生まれ堕ちた雷神の如く駆け巡る。
「ちぃっ!!マジで数、減らねぇぜっ!!」
どこか幻にでも惑わされているかのような政宗は、行けども行けども『敵』と言う名の波を乗り越え勝利を目指す。
しかし……
なかなかと、目の前に勝利の美酒は現れず手にすることが出来無いでいる政宗の心は焦れ、気が乱れて行く。
「流石にこんだけ居りゃキツイぜ……この俺でもめげそうになるぜっ!」
言葉で己を奮い立たせる。手にした六本の爪刃、己の命と共に戦い続ける。
「……がはっ!!」
ひゅん、と。
一瞬にして空を切る刃が一つ、政宗の背を襲った。
余りの衝撃に落馬した政宗は、倒れそうになる身体を支えるように両手を大地に張り、体制を直ぐさま整える。身印の深い蒼色した陣羽織の背は裂け、下にある黒鎧が剥き出しになった。
「やりやがったな……癖に…癖になるなよっ!!」
蒼の陣羽織を傷付けられた事、即ち政宗自身を傷付けられたのと同じ意味。
逆鱗に触れ持てる力を全て解放する政宗は、滾る血に任せ敵陣へと独り馳せて行く。
しかし、それも長くは続かずにいた。
肩で息を付き、今まで誰も見たことが無い伊達政宗がそこには在った。
何時も涼しい表情を浮かべ余裕しか見せない政宗の、怒り狂い闇雲に暴れ回る姿がそこには在った。
傷だらけの政宗。
誰の助けも無く……唯、独り戦い続けていた。
先の見えぬ勝利に……己の心が折れそうになる。
「らしくないでござる、政宗どのっっ!!」
何処からか、愛しい人の声が聞こえてくる。
此処には居ない……愛しい人の声。
「はっ、俺ももう最後かよ……すまねぇ、小十郎…みんな……ゆきむ、ら……」
崩れ落ちて行く意識の中、彼の地で待っている愛しい人の声を聞いた政宗は、己の最後の時期(とき)を見る。
「しっかりされよ!!そなたが負けてはならぬ!!某との勝負、お忘れか!!」
「なんだ、幸村!!最後ぐらい優しくしやがれ……って、なんで此処に居るんだよ!!」
その声色は幻でも何でもなかった。
政宗が愛し人、真田幸村が紅色の槍を振るい政宗の元へと駆けてきたのだ。
「某の…此処が、政宗殿の元へ行けと泣いたでござる」
政宗の背を護るように立つ幸村は、己の胸を拳でとんとん、と叩き戦場では不似合いな優しい微笑みを、疲弊した政宗を癒すようにふわり、と魅せた。
「さぁ、政宗殿参ろうぞ!!そなたの背は……某に任されよ!!」
「あぁ、小十郎みてぇな事……言ってんじゃねぇよ!!」
上等だ!!
幸村、あんた上等だよ!!
敵陣の中、現れた紅蓮の鬼に不敵な笑みを魅せた政宗は、再び立ち上がり己が命の六爪を握り締め、そして、幸村と共に陣を突っ切って行くのだった。
背/20080216
ゆーみんの「はるよ、こい」の一説のイメージ。
君に預けし、我が心
幸村に護られる政宗様がみたかったんです。
そして、小十郎は怪我人へ・・・汗。