あーあ…

幸村は、この状態が良いのか否か…
嬉しいのか困るのか…

起こすべき?
起こさざるべき?

眼前で揺れている黒髪を見ては…一応、困り果てていた。










「さなだゆきむらーっ!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁーっ!!!何をするか、だてまさむねーっ!!」


いきなりだ。
いきなり、政宗が現れたかと思えば、幸村に飛び掛かって来たのだ。
咄嗟の事と言えども幸村も武士、素早く身構え政宗を殴り倒そうとしたが、政宗の方が行動が早かったか……幸村の腰をしっかりと抱きしめ、勢い余って二人もろとも畳に沈んでしまった。


「離すでござるよ、政宗殿っ!!」

「喧しいっ!!髪、引っ張るなっ!!」

「では、某の上から離れて下され!!」

「ちいっ!!おとなしくしやがれっ!!」

「それは、こちらの台詞っ!!」

等と。
バタバタとしばらくしていたが……急に政宗が静かになったのだ。
同時に体にのしかかっている政宗の重さが増し、幸村は不思議そうに様子を伺う。


「ま、政宗殿??」

「……………」

「政宗……殿??」

「……すーっ……」

「……いきなり来て寝ないで下されーっ!!」


そう。
静かになった理由は、幸村に抱き着いたまま政宗は寝落ちしてしまったのだ。
これだけ大音量で絶唱しようと起きない政宗は、相当疲れているのか……うんともすんともしなかった。
困ったのは幸村で、身動きも取れずうろたえてしまう。
が。
すぅすぅと寝息を立て子供のような無防備極まりない政宗の寝顔を見てしまうと、

「このような姿を某に見せられると…困るではないか、政宗殿……」

幸村は、身体に篭っていた力を抜き溜め息をついたのだった。
己を信頼してくれているのが嬉しいのか、困るのか……
政宗の身体の重さと体温とを一身に受ける幸村は一人、顔色をコロコロと変えては悩んでしまっていた。



眼前に揺れている黒髪に触れながら……







どたどたどた……
ばたばたばた……


幸村と政宗が居る室に足音と殺気が近づいて来た。
勿論、二人分である。

「政宗様っ!!ああっ、何を早まられて!!」

「旦那っ!!だいじょ……ぎゃぁーっ!何やってんのよっ、引きはがしなよっ!!」

「しーっ!!」


血相変えた小十郎は、政宗が幸村を押し倒してると見、目くじら立てた佐助は、幸村を叱り飛ばした。
しかし、少し様子がおかしいのと幸村が、指を唇に押し当て『静かにされよ』と合図する姿に、はた、と小十郎と佐助は動きを止めた。
怪訝そうに幸村としがみつく政宗に近づいた小十郎と佐助は、その様子に微笑した。


「すまぬな、幸村」

「どうしてよいのか…困りましたが……」

「実は、嬉しかったりして〜なんてね」

「何を言うか、佐助!!」



頬を薄く染めながら言っても説得力無いよ(無いな)、旦那(幸村)…




小十郎と佐助は、幸村に言葉無く突っ込む。
小十郎が羽織っていた着物を政宗にかけると、畳に沈み込んでいる二人の傍に腰を下ろし、その様子を見つめる。
佐助も、

「旦那…苦労が多いね〜」

軽口を叩き、政宗の鼻先を摘み意地悪をする。そして、小十郎と同じように二人の傍に腰を下ろし苦笑いをする。


穏やかに眠る政宗の回りには、優しい風が吹いていた。








おやすみ/20071224