寒くて凍えそうな時。
あなたの温もりが傍にあれば良いと願った。
この凍てついた手を、心を・・・どうか暖めて下さい。
あなたの心と、愛で。
 

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「政宗殿、如何なされた? 」
 
本格的な冬の到来を告げようとしている寒空の中、陣を張る伊達政宗には一つの「厄介事」があった。
異常に寒さに弱いと言うことだ。
大将自ら戦の先陣に立ちたがる政宗にとって、この寒さは命取りにもなろうというもの。
しかし、戦は「待った」などと無く迫り来ていた。

本来、敵である真田幸村は、その伊達軍の陣営にいた。
共闘。
その言葉が正しいのか否か・・・・計りかねるが、今は武田軍と共に戦線を張り、これから迎え撃つ敵を待ちかまえていた。
好敵手として互いを認める伊達と真田。
今は暫しの「命の預け」をし、目の前の者に挑み掛かる。

「アンタ、この寒いのに・・・・その格好で凍えてしまわねぇのか? 」
 
真田の質問に答えず、伊達は紅〈くれない〉色した戦装束をまとう真田の姿を見、うんざりという声を上げた。
見ているだけで寒い。
そう言いたいのである。
真田は、至って普通というように、身を屈めて震えている伊達に言った。
 
「鍛錬の度合いが違うのでしょう、某、寒いなどと思ったことはござらぬ」
 
「へーへー、そうかい 」
 
呆れ気味に真田にこう言った伊達は、篝火に寄り手をかざすと摺り合わせ暖を取る。
その様子に伊達が寒さに弱いのだと言うことを知った真田は、小さく笑う。
 
「片倉殿以外にも、苦手な物がございましたか、政宗殿」
 
「・・・・寒いの、苦手なんだよな。奥州育ちの癖によ」
 
何時も食って掛かるように物言いしかしない真田が笑いながら話し掛けてくる様が新鮮で、つい伊達は本音を零してしまった。
そして、それを見せてしまった伊達は、
 
「判ったならさっさと消えな。アンタの姿見てるだけで寒い」
 
照れからなのか真田より視線を外し、篝火を見つめながら己の手の冷たさに感じ入る
なかなかと暖かくならない手に、忌々しさを込め舌打ちをする。
この状態では六爪を操ることもままならないと、何か作を講じなければと伊達は考えていた。
その時。
不意に伊達の手を掴み、真田は自分の両手でそれを包み込んだ。
 
「真に冷たい手をなされている」
 
「・・・・冗談も程々にしな。アンタ、俺のこと嫌いなんだろ・・・・離せ」
 
「嫌いではありますが、この手の冷たさを知りたくなって・・・・つい」
 
申し訳ない、と小声で謝る真田は、伊達の手を離すどころかそのまま己の胸に抱いた
胸に触れる伊達の指先からは真田の鼓動が振動となり、手から伝わる暖かさと共に伊達の身体を浸食していく。
 
「手の冷たい方の心は暖かいと聞き及んだことがございます。政宗殿は暖かい・・・・そうでございましょう? 」
 
「・・・・どうだかな」
 
伊達と真田は、言葉を無くし篝火で照らされたものだけではない朱色で頬を染めていた。
 
 
手/2001210