かくれんぼ〈伊達主従〉








「梵天丸さまー、梵天丸さまーっ」


まだ、小十郎が政宗……梵天丸の従者として仕えた初めの頃の出来事。


次期伊達家当主と言う肩書など知らずに過ごしていた幼い頃、良く『かくれんぼ』の相手、鬼を小十郎はさせられていた。
いつも何時も隠れる梵天丸を探して屋敷内を走り回っていた小十郎だった。


今日も梵天丸は、可愛い花のような笑顔して小十郎を遊びに誘う。


「こじゅうろう、かくれんぼしよう!」

「承知致しました、梵天丸様。では、私が…」

「きょうは、ぼくがおにをするよ!」

「そうでございますか?」 

鬼をすると言い出した梵天丸は、小十郎の着物の端を掴み小さく頭を振り、自分が鬼だと主張する。

「この小十郎…梵天丸様に見付からないように隠れます」

「ぜったいみつけるよ!」

そして、地面にしゃがみ込んだ梵天丸は目を隠し、数を読み始める。
それが合図。
小十郎は、なるべく目につくような場所を選んで、見つけてもらうように身を潜めた




かさりかさり。


数を読み終えた梵天丸は、隠れ潜んでいる小十郎を見つけるべく小さな身体を一生懸命使って探し始めた。茂みの葉が擦れる音、隠れている小十郎の傍でする。

(ここですよ)


と、小さな声で傍にいる姿の見えない梵天丸に囁きかける。
しかし、一生懸命過ぎて聞こえていないのか、小十郎のいる場所を通り過ぎ別の場所を探し始めていた。

「これはこれは、見つけていただくには…骨が折れそうだな」

大きな大人が身を屈め、茂みで小さくなっている。
端から見れば少々滑稽ではあるが、小十郎は暫くそのままの姿で、自分を見つけて喜ぶ梵天丸の可愛いらしい笑みを思い描き、待ち続けていた。





しかし。


待てど暮らせど梵天丸が探している気配が無く……

「如何なされた?」

小十郎は心配になり、茂みから姿を現し梵天丸を探し庭を行き来すると隅の方から猫の鳴き声が聞こえて来る。
しきりに鳴いている声が気になった小十郎は、そちらに足を向け、葉をかさかさと除け覗き込んでみる。

「……やれやれ、小十郎を探す事に飽きられましたか」

柔らかい芝の上、数匹の猫に囲まれて眠る梵天丸の姿を発見したのだ。
柔らかな子猫の毛がふかふかとして気持ち良かったのだろうか、一匹を大切そうに抱き抱えすやすやと寝息をたてていた。
小十郎の存在に猫達が声を荒げようとするのを、

「しっ」

唇に人差し指をあて鳴かないようにと合図する。
利発な猫達なのだろう。
小十郎の仕種が分かるのか猫達は、鳴く事なく静かに梵天丸に寄り添い丸くなるのだった。

「お前達も忠実な梵天丸様の家来だな……」

そう言った小十郎は、安らかに猫達と眠る梵天丸の傍に腰を下ろし、柔らかな笑みを浮かべその様を見つめ続けていた。






かくれんぼ/20071206