片倉菜園にて。
大地の恵を愛でる体格の良い男が一人佇み、澄んだ空気を目一杯吸い込めば、幸福だと悦に入っていた。
その男、名を片倉小十郎。
この菜園の主。
こよなく愛して育てた野菜達の収穫を心待ちにして、はや幾とせ。
ようやっと、ようやっと……その時を迎えたのだ。




上下藍色の着物と袴に身を包み、襷掛けをしていざ出陣。籠を小脇に抱え眼光鋭く刈り取る野菜を見極める。
そして……

「晴れの良き日に豊作を願う」

願を掛け、じわりじわりと菜園に詰め寄った時だった。

「だんな〜!!受け止めてよ〜!!」

晴天が一瞬の影に隠れたかと思えば、影の中より何かが落ちてきた。
小十郎が見上げれば、天から降る声と影に視界と聴覚を支配され呆気に取られたる。しかし、咄嗟に籠を捨てると手を広げ空からの影を捕まえた。


「さっすが、だんな!!お見事!!」

「……じゃねぇだろうが、佐助!何しにきやがった!!」

天から降ってきたのは紛れも無く人だった。
猿飛佐助と言う名の忍。
事あるごとに小十郎をからかいにくるのか何なのか、ちょくちょくと目の前に姿を表していた。
天から降ってきた佐助は、小十郎の身体を下敷きにし、ははは、と緩み切った笑顔を浮かべている。それを見た小十郎は、眉間に皺を寄せ複雑そうな顔をする。
何時もの事だと言い聞かせ、何が起きても動じまいと更に深く眉間に皺を寄せ睨み付けた。

「やだなぁ、警戒しすぎだよ」

「テメェが現れると、ろくな事が起きねぇからな」

「そんな〜、酷いよっ!!」

青天の下、未だ小十郎を敷いたままの佐助は、目の前にある藍色の着物を指で摘みいじらしい仕種をしてみせた。
余りの不似合いさに息を詰め真っ青な顔をする小十郎に『しめた』と口の端だけを上げて笑う佐助。そして『してやられた』と苦虫を噛み潰したような顔を見せた小十郎は、いやらしい笑いをする佐助の頬を抓り退けと言わんばかりに怒鳴り付けた。

「馬鹿にするのも良い……」

「怒んないでよ……ね…」

抓られた頬に当たる小十郎の手に己のそれを触れさせ重ね合わせる。開いた手の先で小十郎の唇をそっ、となぞると、体温を分け与えて貰ったのをそのままに、佐助は己の唇をなぞった。

「野菜達の収穫も良いけど……俺様も収穫してよ」

その煽り文句に小十郎は心臓を跳ね上げ破顔すると、佐助の希望通りに野菜達と共に収穫するのであった。




ね/20080120



ブログに上げた物の修正版です。
少し触りました・・・そして、バカップルの誕生です・・・苦笑。