春まだ浅い、三月に。
君の優しさに触れました。
真白な雪が溶けるよに。
僕の心も溶けました。
一日、一日と。
冷たい雪の解ける音と、暖かな風の吹く音が『交代だよ』と囁き合い、季節は次第に移り変わる。
「あ、雪割草の花だ・・・・もう春間近だよね」
山の中、木々の合間を縫って佐助は走っていた。
大将・武田信玄の使いで、同郷のかすがが睨みを利かせている上杉謙信の元へ行っていた。
まぁ、かすがにシッカリと噛み付かれ小刀を手に振り回し、佐助は追いかけ回され早々にと信玄の元へと戻る最中だった。
小枝を足場に、軽やかに跳ぶ忍びの影。
飛び去った後の枝は、しなやかに揺れ未だうっすらと残る雪を払い落として行く。
辺りを見てみれば、小さない生き物達がゆるゆる、と動き始めていた。
佐助の跳ぶ風に反応し、辺りを、その跳ぶ様を捜してつぶらな瞳をきょろきょろ、とさせていた。
「ダメだよ、そんなじゃ俺様、見付けられないよ」
眼下にいる生き物達を見ては、少し得意気に笑っていた佐助。
そんな中、不意に見付けた・・・・雪割草。
岩地の隙間から小さな息吹を、春の訪れを知らせてくれている。
『春間近だよね』と言う佐助は、此処より北の奥州の地を思う。
雪で閉ざされた地へ、想い人へと佐助は心を飛ばすのだった。
*****
佐助が甲斐に戻ってみれば、思いを馳せていた奥州より・・・・人が訪れてきていた。
「で、お国でのお仕事はどうしたのかな・・・・バカ宗様」
「あー!? ウルせぇよ小姑。オッサンに用が合って来ちゃ悪ぃのかよ」
「ほー、さいですか。でわでわ大将とごゆっくり。旦那〜土産買って来たから一緒に食べよ♪ 」
「・・・・覚えてろよ、忍」
そんな佐助の政宗に対する呼び方に突っ込むべき所へであるが、そのやり取りが面白すぎたのか傍に控えていた小十郎は笑いを堪え口元を隠していた。
伊達主従をそこに置いたままくるり、と背を向けた佐助は、手にした包みを頭の上に掲げると床を踏んだ足先から花が零れるように軽やかに、旦那と呼ぶ幸村の元へと駆け行く。
「さぁ、政宗様。参りましょう」
幸村を佐助にカッ攫われて悔しいか、ぎりぎり、と奥歯を噛み締めている政宗の帯を引っ張る小十郎は、信玄の元へと引きずっていくのだった。
*****
「春近しと言っても、日が暮れちゃうと冷えるよね・・・・」
山に囲まれし甲斐の国。
柔らかな色を湛えた夕陽は姿を消し、群青色した空が広がる。
夜も更け。
信玄が宴を開くと張り切り、政宗を持てなし、そして幸村も同席するようにとのお達しがあった。
小十郎も勿論、客人として宴席に混じっていたが佐助は、酒がてんで駄目で逃げるように席を抜け出し庭先へと降り立っていた。
両肩を自分の掌でさすり、薄着で出て来てしまったのは失敗したと夜空を見上げ呟いた。
吐く息は白く、まだ春が近いとは言い難い冷え込みだった。
「寒いなら中に入れば良いものを」
忍として背後を取られるのは不覚であったが、『今日は良いか』と佐助は振り返り声の主を見上げる。
「やだよ、あんなザルばっかの座敷・・・・それに、大将と竜の旦那に絡まれたら堪ったモンじゃないよ」
「そりゃそうだ」
「って、片倉の旦那も強いじゃん」
「テメェと幸村ぐらいじゃねぇか、飲めねぇの」
思わず二人、顔を見合わして笑ってしまう。
今でも。
座敷は酒乱が揃いに揃って暴れていると、そこから抜け出してきた小十郎は佐助に言ってやると羽織っていた物をその肩へと掛けてやった。
ありがと、と。
風で流れ消えてしまいそうな声で佐助が言った瞬間。
「片倉どのぉぉぉ!!! 政宗殿が・・・・政宗殿が潰れてしまわれましたーっっっ!!! 」
血相変えて宴席から飛び出して来た幸村は、政宗の介抱と信玄の暴れっぷりを止めて貰おうと、小十郎にしがみつき泣いて頼み込むのだった。
「やれやれ、老虎に若竜が飲まれてどうされようぞ。判った・・・・ほら、幸村離れろ」
溜息と苦笑いを浮かべた小十郎は、幸村の頭をぽんぽん、と軽く叩いてやると鼻を鳴らし涙を止め頷いた。
佐助もその様に『片倉の旦那にまで懐いて・・・・俺様、ちょっとショック』と、小十郎とは別の溜息と苦笑いを浮かべる。
「ちょっと見てくる」
「あ、うん。頑張って大将止めてきてね。でも、竜の旦那・・・・かわいそ」
「政宗様も、幸村を賭けて信玄公に挑むのであれば根性をみせなされ・・・・全く。ま、俺は絶対に勝つがな」
「・・・・何言ってんだか」
幸村に腕を引かれ座敷へと引きずられていく小十郎の背を佐助は、掛けられた羽織を握り締めながら静かに見つめていた。
春未だ浅き/20080313
久々に小十佐。+ 蒼紅 in ネタ筆頭。
いいのか・・・これ。
もう、春間近です。
今日すっごい暑くて吃驚しました。
ちょっと色々と日記で愚痴てしまいましたが・・・
心を穏やかにさせようと、散文で昇華させてみました。
こんな楽しくて穏やかな日常がいいな・・・と思い書いてみました。
少しでも心に止めて頂ける文がありましたら幸いです♪