この桜の木の下で。
大好きなあなたと約束しましょう。
永久に解けぬ、強い絆を。
「今年も綺麗に咲いてくれたね・・・・ありがとう」
佐助がこの桜の木に魅入ってしまったのは、何時の日からだろうか。
我が主と添う真田幸村の元へとやって来た春の日に庭で出逢ったこの木は、零れんばかりの花を咲かせていた。
淡く、儚げな桜花達。
風が舞えば花弁もふわり、と優しく舞い遙か彼方の空へと攫われていった。
そんな花弁の流れて行く様を鳶色した瞳に映し、心に記憶の欠片として封じ込めると佐助は、今年も花を咲かせたこの木に礼を言うのであった。
幼い頃に見たこの桜の木は、既に老木だった。
何時朽ちてもおかしくはない程のものであったが、未だ枯れること無く季節の移ろいを魅せてくれている。
年々に美しい淡桃色した可愛い花を咲かせては、散らせて行く。
佐助は、老木が花を付けるのを見ては喜び、それと同時に『自分も生きている』と言う現実を思い知る。
そして、この桜を愛でる事を幾度か繰り返された春の日の・・・・出来事。
今年も桜が美しく咲き零れ、その艶やかさを見つめては穏やかに微笑んでいる佐助。
老木の幹にそっ、と手を添え瞳を閉じる。
〈無事に生きて・・・・この桜が見れて良かった〉
死を厭わない佐助が、この時だけは・・・・己が生きていると言うことを心の片隅で、誰にも知られないように歓喜する。
言葉に出して伝える感謝とは別の、佐助だけの『喜び』
心穏やかにして魅せられて止まない桜と共に、暖かな刻の流れを過ごしていた時。
突然、背中から強い衝撃を喰らい、思わず佐助は咽せ込んでしまった。
「ごほっ・・・・どーしたのよ、旦那?? 」
佐助は、声を掛けたが後ろを振り返ることは無かった。
背中に衝撃を与えたかと思えばしがみつき、何処か切羽詰まっている素振りが伺える主・真田幸村の暖かさが忍装束を通して佐助に届けられる。
〈生きてる“証”って奴だね〉
その心地良い暖かさに息を一つ吐いた佐助は、未だ言葉もなくしがみついたままの幸村に、もう一度同じ問いかけをした。
「黙ってちゃ分かんないよ。一体どーしちゃ・・・・」
「・・・・逝くな、佐助」
「はい? 」
「某を置いて逝くことは許さぬ」
「俺様、何処へも行かないよ〜。ずっと旦那の傍で、旦那護ってあげるんだから」
ははは、と笑い忍装束を握り締めている幸村の手に触れようとした瞬間、佐助はあることに気付く。
幸村の言った言葉を心の中で反芻する。
幾度と幾度と。
繰り返し繰り返し。
〈俺様の言っている“行く”と旦那の言っている“逝く”の意味・・・・違うんだ〉
その言葉の真意に気付いた瞬間。
佐助は、身体を反転させると身動きすること無く顔を伏せている主を斜から伺い見つめる。
唇を噛み締め、何かを耐えるような面持ちをしている幸村がそこには在った。
忍装束を握り締めていた両の手は、空を抱くような形で伸ばされたままになっていた。
この隙間には己の身体が埋まっていたのかと、その空に在る幸村の手に触れようとするが躊躇いが生まれてしまう佐助。
幸村のこの“思い”に己は、答えることが出来るのだろうか? と。
しかし、主の“思い”は絶対なのだと改めて胸に刻み込むと、躊躇い握り込んでしまった手を改めて幸村へと伸ばせば、その肩をしっかりと佐助は掴む。
佐助の行動に驚いた幸村は伏せていた顔を上げ、目の前にある忍の表情を両の目に焼き付けるかのよう見つめていた。そして、自分を見つめている忍の向こう、桜の老木から散り行く花弁も共に焼き付けるのだった。
「絶対に旦那置いて逝ったりしないよ。だって、旦那独りぼっちにしちゃったら・・・・泣いちゃうでしょ? 」
「失礼だぞ、佐助!! 某は泣いたりなど・・・・」
言っている矢先から幸村は、感極まってしまったのかぼろぼろ、と涙を零し始め、また顔を伏せてしまう。
子供のように泣きじゃくってしまっている主の小指に佐助は、己のそれを絡ませて繋いでしまえば二人の間に掲げ上げ“見て”と幸村に声を掛けた。
「泣き虫な旦那と約束。年が変わって春になったら・・・・また一緒にこの桜、見ようね」
その言葉に、“約束”と繋がれた指に、眼前にある佐助の笑顔と、佐助の背を護るように添う桜の老木に幸村は、零した涙はそのままに春の日のような穏やかで優しい微笑みを浮かべたのだった。
桜人 〈真田主従〉/20080427
ふーっ、ギリギリセーフ。
日が変わる前に更新出来そうです。
4月入って全然・・・・と言っても良い程に書いて無くて、書き方を本気で忘れそうでした。
5月のイベントに向けてのリハビリ兼ねて・・・・書いてみましたが、2日掛かったという。
なんともはや・・・・汗。
時期を外す勢いですが、桜人・・・・。
好きな桜の木に毎年、会いに行く方の事を言うらしいです。
ラジオでの聞きかじりなので、間違っていたら申し訳御座いません。
相方からは「桜が好きな人・見る人」の事を言う・・・と教えて貰いました。
そんな意味があるそうです。
私も桜が大好きです。
怖い花だという事も同時に在るのですが・・・・これは東京BABILONからの話。
桜の花があの色なのは・・・・と言うネタ。
でも、そんな話があっても・・・・それはそれで悲しくも儚い話ですが、やっぱり好きです。
久々に書いて・・・・自分で上手く感想を述べる事が出来ないのですが、
この二人の様に桜の元で約束をしてみたいものです。
駄文ではありましたが、お付き合いして頂きありがとうございました。
ああ、緊張。汗。